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『ブレードランナー2049』冒頭10分間のシーンで脚本の研究

『ブレードランナー2049』を好きな理由は色々ありますが、脚本の洗練された語り口も魅力の一つだと思っています。
特に冒頭10分間のシーンは、それ単独で一つの短編小説みたいに濃縮された面白さがあると思っていて、初めて観た時はもうそこだけで「これは凄い映画になるぞ…」という予感を持ったものです。実際それは当たってました。

というわけで、この記事では冒頭10分間のシーンの脚本を詳細に掘り下げていき、ストーリーテリングに使われているテクニックなどを見てみたいと思います。
なお、今回でいう「脚本」は、映画制作の段階で使われた脚本のことではなく、完成した映画本編の内容のことを指します。
(前者の脚本はあくまで「こういう物語にする」予定のことを書いてある台本で、実際には撮影現場でのアイデアを取り入れたり編集段階での修正を加えたりして、完成した映画は脚本とは異なるからです。)

そのため、以下の劇中の文章は、映画の脚本を引用したものではなく、本編の映像を筆者が観て一から書き起こしたものです。
ご了承ください。

〈↓ネタバレあり Spoiler Alert!↓〉
・映画『ブレードランナー2049』
※冒頭10分以内の重大なネタバレを含みます。

それでは、まずはオープニングスクリプトから。

 

REPLICANTS ARE BIOENGINEERED HUMANS, DESIGNED BY TYRELL CORPORATION FOR USE OFF-WORLD.
THEIR ENHANCED STRENGTH MADE THEM IDEAL SLAVE LABOR

(レプリカント地球外惑星オフワールドでの使用を目的として、タイレル社により開発された人造人間である。彼らの強化された身体能力は、理想的な奴隷労働力として使われた)

AFTER A SERIES OF VIOLENT REBELLIONS, THEIR MANUFACTURE BECAME PROHIBITED AND TYRELL CORP WENT BANKRUPT
(だが何度も反乱を起こしたためその製造は禁止され、タイレル社は倒産する)

THE COLLAPSE OF ECOSYSTEMS IN THE MID 2020s LED TO THE RISE OF INDUSTRIALIST NIANDER WALLACE, WHOSE MASTERY OF SYNTHETIC FARMING AVERTED FAMINE
(2020年代半ばの生態系エコシステムの崩壊により、企業家二アンダー・ウォレスが台頭。彼の合成農業によって人類は飢餓を回避した)

WALLACE ACQUIRED THE REMAINS OF TYRELL CORP AND CREATED A NEW LINE OF REPLICANTS WHO OBEY
(ウォレスはタイレル社の資産を取得し、より従順な新型レプリカントの製造を開始)

MANY OLDER MODEL REPLICANTS – NEXUS 8s WITH OPEN-ENDED LIFESPANS – SURVIVED.
THEY ARE HUNTED DOWN AND ‘RETIRED’

(旧型のレプリカント――寿命の制限のないネクサス8型――は多数生き延びたが、”解任”の対象となり追跡された)

THOSE THAT HUNT THEM STILL GO BY THE NAME…
(彼らを追う捜査官は今もこう呼ばれる…)

B L A D E R U N N E R
(ブレードランナー)

 

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映画『ブレードランナー』+『ブレードランナー2049』(かんたん感想)

〈↓ネタバレありSpoiler Alert!↓〉
・映画『ブレードランナー』
・映画『ブレードランナー2049』

1982年の『ブレードランナー』という映画は、私にとって長い間、観ておくべきかどうか迷っていた作品でした。
多くのクリエイターがこの映画に影響を受けたという話は聞きます。後に続く数多くのSF作品が、この一本の映画にインスパイアされたということも知りました。
それでもこの2017年になるまでに、私がこの「原点」なるものに触れてみようと思うきっかけはありませんでした。だって自分が生まれるより約10年も前の作品だし、他に今に観たいものもたくさんあるし……と。

そこにやってきたのが『ブレードランナー2049』でした。続編を作ることさえ畏れ多いとまで言われた作品。しかもリドリー・スコット本人が監督するわけでもない。
しかし『2049』の本編が公開される約1か月前に、相次いで公開された3本の短編映像が斬新で私の目を引きました。前作と続編の空白期間を描く、3つの前日譚。私は観てすぐにその世界観に引き込まれていくのが分かりました。


『2049』公開の1週間前の休日、やっぱり予習はしておくべきだと思い立ち、私は『ブレードランナー:ファイナル・カット』(字幕版)のバージョンを手に取りました。

そういうわけで、以下の感想ではこれら2つの映画を、別々の作品というよりかは、一続きの自分なりの体験として扱っています。
ちょっと長くなりますがどうぞお付き合いください。
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映画『エクス・マキナ』 (かんたん感想)

あらすじ

ケイレブ・スミス(演: ドーナル・グリーソン)は、世界最大手の検索エンジン企業「ブルーブック」で働くプログラマー。ある日彼は社内の抽選に当選し、社長のネイサン(演: オスカー・アイザック)の自宅へと招待される。ヘリコプターに乗り、山奥へと連れて行かれたケイレブは、深い森の中にひっそりとたたずむ現代的な邸宅を見つける。彼は、玄関で機械が発行するキーカードを受け取って中に入り、そして初めてネイサンと対面する。ネイサンはケイレブに、彼が秘密裏に行っているある研究のために協力してほしいと要請するが、そのためには機密保持契約書へのサインが必要だった。
戸惑いながらもサインしたケイレブ。ネイサンは、彼がこの屋敷で人工知能(AI)の研究していると打ち明ける。ケイレブが頼まれたこととは、AIの「チューリング・テスト」――人間が機械と対話し、機械が知能を持っているかどうか判別するテスト――をすることだった。そして、監視カメラを備えた小部屋で、彼は人型のロボット、エヴァ(演: アリシア・ヴィキャンデル)とガラス越しに対面する。エヴァは人間の女性の顔と手足を持つが、それ以外の身体のパーツは機械が剥き出しだった。エヴァは、ネイサン以外ではケイレブが初めて出会う人間だと話す。極めて人間らしく会話をこなすエヴァの能力に、ケイレブは驚嘆する。
その晩、眠れずにいたケイレブが自室のテレビを点けると、なぜかそこにはエヴァのいる部屋の監視カメラ映像が映っていた。じっと観察していると、突然屋敷全体が停電する。電力が復旧するまでの間、彼は一時的に部屋に閉じ込められてしまう。
夜を明かした翌日も同様にケイレブはエヴァとの対談を始める。二者は互いのことをもっとよく知ろうとするが、その途中で再び屋敷が停電する。エヴァは、部屋の監視カメラが機能していないのを見るや、ケイレブに対して「ネイサンは嘘をついている」と警告する――。

レビュー

〈↓ネタバレあり Spoiler Alert!↓〉
・映画『エクス・マキナ』

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2016年2月観た映画2本 『キャロル』、『オデッセイ』(かんたん感想)

今回も遅まきながら感想載せておきます。物語に関わる重大なネタバレは無しです。

『キャロル』

あらすじ

1950年代、ニューヨーク。テレーズ・ベリベット(演: ルーニー・マーラ)は、レストランで男の知り合いに声をかけられる。彼女は、キャロル・エアードという女性(演: ケイト・ブランシェット)と会話中だった。だが、キャロルは席を立ち、去ってしまう。その後、テレーズはキャロルとの思い出を回想する。
テレーズはデパートで働いていた。クリスマスの近づくある日、おもちゃ売り場で電車の模型を見ていたキャロルと目が合う。キャロルは テレーズのレジで模型を購入し、宅配の手続きをする。だが、キャロルは手袋を忘れて帰ってしまった。送り状から住所を知ったテレーズは、その手袋を郵送で届ける。
キャロルは一人娘と暮らしているが、夫と離婚協議中だった。キャロルの家に忘れ物が届くと、キャロルはデパートのテレーズに電話し、お礼にとランチに誘う。遠慮していたが承諾したテレーズはキャロルと再会し、その後何度か交友を重ね、互いの家も訪れるようになる。クリスマスの期間になると、テレーズとキャロルは、それぞれの身の回りの男性達と距離を置き、二人きりで国内旅行に出かけるが――。

レビュー

LGBTをテーマとした映画というか、そもそも恋愛映画自体あまり観たことが無いのですが、今作はそれらの中でも一番印象に残る作品になりました。
何から何まで美しいと思います。映像も音楽も。主演女優2人はもちろんのこと、50年代の地味な色調の風景の中で一際目を引く赤やピンクの帽子など、美術や衣装の面で細部まで素敵です。

観ていて、「距離」が重要な作品だと思いました。テレーズとキャロルの初めての出会いのシーンの、おもちゃ売り場の端と端の間の距離。レジを挟んで話す時に縮まる距離。二人の間の距離は動き続けます。テレーズがカメラを持って遠くからキャロルを撮る時。車で隣同士に座る時。肩に手をかける時。一方で、彼女達の距離の近さを不適切に思うのが、周囲の男性達であったり。かつて、同性があれだけ近い距離にいることに対して、世間が無理解だった時代。テレーズとキャロルは、互いの間の距離にも、社会との距離にも苦悩することになります。
紆余曲折を経た後の、ラストシーンの距離の変化は、初めての出会いのシーンとの対比を感じてはっとしました。
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映画『ハーモニー』 (かんたん感想)

イントロダクション

『屍者の帝国』に続いて、『Project-Itoh』の映画第二弾。原作はもちろん、伊藤計劃が書いた最後の完成された長編『ハーモニー』。
監督は二人体制で、なかむらたかし氏とマイケル・アリアス氏。制作はSTUDIO 4℃

優しさで覆われた世界に嫌気が差している主人公役に沢城みゆき、そんな世界を転覆させようとそそのかすカリスマ的な親友役に、上田麗奈。そしてその二人の間に立つ重要なポジションの少女役には洲崎綾。他にも、榊原良子チョー、『屍者の帝国』から引き続き登場の大塚明夫三木眞一郎など、こちらも実力派ばかり。

日本の公開日は2015年11月13日。

あらすじ

これは、”ETMLバージョン1.2″によって記述される、「わたし」の物語。

近未来のニジェールの砂漠地帯。一面のひまわり畑の端で、世界保健機構(WHO)の「螺旋監察事務局」の上級監察官である霧慧トァン(演: 沢城みゆき)は、トゥアレグ族の一団と接触する。一団の男アサフ(演: 大塚明夫)は、トァンらを「医療の民」と呼び、トァンからナノマシンの医療パッチを受け取る。
かつて世界規模で起きた「大災厄」の後、トァンらの属する医療社会では、人類の健康を至上価値とし、人命を社会の重要リソースとする「生命主義」が掲げられた。そこでは誰もが「WatchMe」と呼ばれるナノマシンを体内に注入して健康を管理し、病気を駆逐していた。酒や煙草などの不健康な嗜好品はご法度とされていたが、生命主義のことを倦んでいるトァンは、平和維持活動という任務の傍らで、医療パッチとの交換でそれを戦場で仕入れていた。トァンが基地に帰還すると、彼女の上司であるオスカー・シュタウフェンベルク(演: 榊原良子)が待ち受けており、トァンが嗜好品を隠し持っていることを咎める。螺旋監察官がそれらを持っていることが公になれば重大な不祥事となるため、シュタウフェンベルクはトァンを謹慎処分とし、日本へ帰国させる。
13年前、日本の女子高生だったトァンは、御冷ミァハ(演: 上田麗奈)というカリスマ的な少女と親友だった。ミァハは、あらゆる人への優しさと思いやりを強要する社会を激しく嫌悪しており、トァンと、もう一人の親友である零下堂キアン(演: 洲崎綾)と共に、自殺を企てる。生きて社会の一員となることを求めてくる世界への抵抗として。しかし、結果的に死亡したのはミァハ一人だけだった。生き残ってしまったトァンは、以来罪悪感を引きずっていた。
嫌々ながら母国へ帰ったトァンは、そこで親友であるキアンと再会する。13年を経て、すっかり健康社会の模範的な一員となってしまった様子のキアンを目にし、トァンは内心で失望する。しかし、昼食の席でキアンは、かつてミァハに持ちかけられた自殺の企てを、親達に告白していたのだと明かす。トァンの自殺が未遂に終わり、ミァハだけを逝かせてしまったことを、キアンは今も悔いていた。トァンは、キアンがある意味では命の恩人であると知る。
だがキアンは突然、「ごめんね、ミァハ」と呟くと、唐突にテーブルナイフを自分の首に突き刺した。その時、健全な世界の各地で、大量の人間が一斉に自殺を図る事件が起きていた――。

〈↓ネタバレあり Spoiler Alert!↓〉
・映画『ハーモニー』
・小説『ハーモニー』
・映画『屍者の帝国』

レビュー

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