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映画『ジェイソン・ボーン』三部作 総論編

――「ヒーロー」を変えたヒーロー


〈!ネタバレあり Spoiler Alert!〉
映画『ボーン・アイデンティティー』
映画『ボーン・スプレマシー』
映画『ボーン・アルティメイタム』

はじめに


初めてこの映画を観た時のことは、何となくですが覚えています。
残念ながらリアルタイムで、つまり劇場で観ていたわけではありませんでした。ただ約5年前に、テレビで『ボーン・アイデンティティー』(以下、『アイデンティティー』)が放送されていたのを観た時が最初です。当時から私はアクションの洋画が大好きでしたが、その時それを観たのは、ある種気まぐれみたいなものでした。
観ていて、知らないうちに惹きこまれたのを覚えています。派手なアクションがあるわけではない、ストーリーも複雑なわけではない……、それでも何か、他の大多数の映画には無いものを感じて、その後も妙に印象に残っていました。

例えば、『アイデンティティー』の序盤、スイスのアメリカ大使館でのシーン。ボーンは3人の警備員に囲まれてしまいますが、瞬く間に全員を床に打ち倒します。警報が鳴らされ、パニックが起きる館内。待機していた海兵隊まで出動します。
では、ハリウッドのアクション映画的にこの後ありそうな展開といえば? ボーンが海兵隊とドンパチを始めるとか、銃撃を華麗にくぐりぬけて大使館から脱出とか。確かにそういうことをやれば、それなりに見栄えの良いアクションシーンができるかもしれません。映画開始から約20分に置くにはちょうどよさそうな内容になるでしょう……いくらかのリアリティが犠牲なるかもしれませんが。
しかし、この映画にそんな展開はありませんでした。ボーンは代わりに、上のフロアに駆け上がり、昏倒させた警備員から無線機を奪い取り、避難経路を示すマップを壁から剥ぎ取った後、堂々とパニックの中を歩いて、出口を探すのです。避難する大使館職員は、その場に不釣り合いな格好をした男を見て一瞬怪訝に思いますが、呼び止めません。なぜなら、騒動の犯人がその男だとは誰も知りませんし、その男があまりに冷静な様子なので、危険を感じなかったからです。ボーンもそのことを分かっていたのでした。

同映画の中盤、ボーンの自宅のアパート。暗殺者カステルの気配を感じ取ったボーンが、キッチンから包丁を取り出し、部屋部屋を調べます。何も知らないマリーに出くわしたところで、彼はとっさにマリーの見えないところへ包丁を捨て、何事も無かった風を装います。この後本当に敵の暗殺者が現れ、格闘に発展しますが、先ほど捨てた包丁がそこでもう一度使われるという展開は、十分にありえるでしょう。その場合、包丁が後のファイトシーンへの布石として機能することになります。
しかし、その時ボーンがとっさに手にできたのは、至って普通のボールペンでした。しかも、それでナイフを持った敵を圧倒するのです。刃物同士のスリリングなファイトシーンになりうるところが、「ペンは剣より強し(物理)」な格闘シーンにしてしまうのです。

王道を外す

要するに何が言いたいかと言うと、私が思ったのは、この映画は、ある種王道の設定を使用しながら、ところどころで絶妙にそれを外してくるということです。それなりに大規模な予算を貰っているハリウッド映画でありながら、同じ条件のこれまでの映画とは何かが異なっています。

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映画『ジェイソン・ボーン』三部作 紹介編

なんだかこの頃、また『悪の法則』経由での当ブログへのアクセスが増えていますね。
何かあったっけ? ……と思っていましたら、見たところ、アクセス急上昇の時期と、映画のパッケージ版の発売日がほぼ一致してました。なるほど、と納得です。ブログに(最新)映画のレビューを載せると、こんなことも体験できるんですね。
もう少しこの余談を続けますと、はい、実は私もあの映画、もう一度観てみたくなっているところでした……。白状しますと、あれは私にとって、一度の鑑賞でだいたいのことが分かるタイプの映画ではありませんでした。だいたいすら分かんなかったです。ですが同時に、何か、あの映画にはもう一度観たいと思わせる何かがあります。やはりこれもコーマック・マッカーシーが成せる業なのか。
それに今調べてみたら、ブルーレイ版だとどうやら本編のエクステンデッド・エディションが付いてるみたいじゃないですか! これほどの長さだったら観て感想が変わらないわけがないでしょうね。劇場版だとどれだけの情報が省略されてたのやら……。
お金に余裕ができたら考えてみようかなと思ってます。

 

さて、本題です。今回から「良いモノ語り」カテゴリで扱います作品は、映画『ジェイソン・ボーン』シリーズです!
ここでは、映画『ボーン・アイデンティティー』、『ボーン・スプレマシー』、『ボーン・アルティメイタム』の3作を総称して、『ボーン』三部作(トリロジー)と呼ぶことにします。
今回の紹介編では、「ボーンシリーズって何よ?」という人のために、この素晴らしいシリーズの概要を説明いたします。

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イントロダクション

ユニバーサル・ピクチャーズ配給のアメリカ映画。スリラー・冒険小説の大家ロバート・ラドラムによる、1980年以降の同名小説三部作の映画化……という体裁ですが、作品設定を部分的に借用しているくらいで、最終的にはほぼ原作と関係無くなってきます。まあ映画じゃよくある話ですよ。
本作は、記憶喪失になった元CIAエージェント「ジェイソン・ボーン」が、組織に命を狙われながら、自分の過去の真実を突き止めるために孤独に闘うさまを描く、リアリステッィクなアクション作です。後続のゼロ年代のアクション映画に大きな影響を与えたといわれます。

三作の主演はご存知、マット・デイモン。それまでの「若造」的なイメージに加えて、タフでクールで影のあるアクションヒーローもこなせることを示し、今ではデイモンといえばまずこの作品の名が挙がるほどの代表作になりました。
第一作『ボーン・アイデンティティー』(The Bourne Identity)は、2002年にアメリカで公開。監督は、後に『Mr. & Mrs. スミス』(2005)や『ジャンパー』(08)などを撮ることになる、ダグ・リーマン。共演は他に、フランカ・ポテンテ、クリス・クーパー、ブライアン・コックス、ジュリア・スタイルズなど。ヒーローとしてのジェイソン・ボーンが初登場した記念作です。
第二作『ボーン・スプレマシー』(The Bourne Supremacy)の公開は、2004年。監督は、ドキュメンタリー畑で白羽の矢が立った、ポール・グリーングラス。本作で、アクション映画だって撮れてしまうことを示しました。最近だと『キャプテン・フィリップス』(13)が公開されてますね。共演は、ジョアン・アレン、カール・アーバンなど。
第三作で最終作『ボーン・アルティメイタム』(The Bourne Ultimatum)は、2007年に公開。監督は前作から続投。共演は、デヴィッド・ストラザーン、スコット・グレン、エドガー・ラミレスなど。この作品はアカデミー賞でもいくつかの部門で賞をもらっていましたね。

三作とも、脚本はトニー・ギルロイ。80年代を舞台にした原作を、現代用に絶妙にアレンジしました。また、音楽はジョン・パウエルが担当。エンディング曲は、三作連続でモービーの『Extreme Ways』が使用されています。今ではボーン三部作といえばこれ、という立派なテーマ曲になりました。

あらすじ

ボーン・アイデンティティー

嵐の夜の地中海。海上を漂流していた一人の男が、漁船によって救出される。男は背中に銃弾を受けながら、奇跡的に一命をとりとめていたが、彼は自分の名前を含め、過去の記憶をすべて失っていた。混乱する男の体内からは、スイスの銀行口座の番号を記したライトが見つかり、彼はそれを手がかりに、スイスへと向かう。
男は夜に警官に職務質問されるが、身分証が無いために不審に思われ、連行されそうになる。その瞬間、男は反射的に警官の銃を奪って殴り、一瞬のうちに昏倒させていた。まったくの無意識の自分の行動に不安を覚えた男は銃を捨て、銀行に急ぐ。そして、問題の貸金庫から、自分の写真が入っているパスポートを見つけた。名義は「ジェイソン・ボーン」。しかし、その金庫の二重底の下に、同じ自分の写真が入った複数の別人名義のパスポート、そして拳銃が隠されているのを見つける。
一方その頃、アメリカ中央情報局(CIA)は、地中海での暗殺任務に失敗し、その後消息が掴めなくなっていたとあるエージェントの捜索に躍起になっていた。彼がスイスの銀行に姿を現したと分かるや、複数の暗殺者を彼に送り込む命令が出される――。
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