映画『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』を観た (かんたん感想)

イントロダクション

かつてヒーロー映画の主演で有名になり、現在は落ちぶれた中年俳優が、ブロードウェイの舞台に出てもう一度名声を取り戻そうと奮闘するコメディ。

監督はアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ。日本だと『バベル』で注目されてた人ですが、個人的には2010年のハビエル・バルデム主演の『BIUTIFUL ビューティフル』の方が気になってて、まだ観ていないという状況です……。
また、撮影監督はエマニュエル・ルベツキ。長回しで有名なアルフォンソ・キュアロン監督作などに参加していた人なので、この映画の長回し撮影のために抜擢されたんでしょうね。

「かつてヒーロー映画で主役をやった」という主人公には、現実で『バットマン』をやったことのあるマイケル・キートン以上に説得力のあるキャストは無いかもしれません。また、主人公の娘役にはエマ・ストーン、優秀だけど嫌味な俳優役にエドワード・ノートン、そしてナオミ・ワッツザック・ガリフィアナキスなど、本当に舞台にいたら凄そうな人達ばかりでした。

アカデミー賞で監督賞を獲った作品は作品賞は受賞しない、とか言われてたみたいですが、少なくともこの作品は例外のようで、どちらも獲りましたね。あと撮影賞も。
米国での公開が2014年10月17日。日本での封切りが2015年4月10日。

あらすじ

リーガン・トムソン(演: マイケル・キートン)は、かつて『バードマン』というスーパーヒーロー映画で、主役のバードマンを演じたことで著名なアクション俳優だったが、現在は人気を失い落ちぶれてしまっている。俳優としてもう一度輝くために、彼は全く経験の無いブロードウェイに進出するという決断をし、自らの主演・演出で舞台を開こうとしていた。
しかし、プレビュー公演を目前に控えたリハーサルの時、共演者の一人が事故で怪我を負い、降板する。芳しくない舞台の出来も案じて、リーガンはそのままプレビュー公演が中止にしようと思っていたが、弁護士でありリーガンの親友のジェイク(演: ザック・ガリフィアナキス)は代役を探す。そして、実力派の俳優であるマイク・シャイナー(演: エドワード・ノートン)が急きょ呼ばれた。
マイクはリーガンの期待にかなうような演技をする男だったが、舞台という「芸術」に高い理想を持っているマイクは、次第に周囲と摩擦を起こすようになり、結果的にプレビュー公演は大失敗に終わる。ブロードウェイで華々しい再復活を果たすというリーガンの夢は、ますます絶望的になる。
そんなリーガンが一人で楽屋に籠っている時は、どこからか声が囁きかけてきて、彼の惨めな現状をあざ笑ってくる。それは、かつて自分が演じたアクションヒーロー「バードマン」の声だった――。

〈↓ネタバレあり Spoiler Alert!↓〉
・映画『バードマン』

レビュー

シームレスな虚構

カット無しの長回しの映像って、映画の楽しいマジックだと思ってます。どうカメラが移動してもスタッフの姿が映り込まず、どこまで行ってもアクションが続いてる映像。観ている側には、どうやって撮っているのかさっぱり想像が付かず、気付いたら映像の世界に没入しています。
映画が長回しを使う目的は、没入を促すためです。現実の日常での私達の視界が、(目の瞬きによってカットされることはあっても、)ずっと同じ一続きのシーンとして感じられているように、長回しは本来の人間の感覚にかなり近い映像といえます。虚構ではあるけれども、私達の現実と似たように感じられる虚構。

ただ、『バードマン (以下略)』で使われている長回しは、おそらく他の長回し映画には無い意味や効果を持っています。カットがどこにも無い虚構の映像の中に、さらに別の虚構が入り込むからです。
例えば、舞台上でリハーサルをするシーン。リーガンやマイクが普通に会話していたら、唐突に役に入って台詞の読み上げが始まります。かと思えば、いきなり台詞を中断して、役者としての議論に戻ります。
字幕にクオーテーションマークが無いと、今喋っているが映画としての台詞なのか、劇としての台詞なのか、見分けるのが難しくなかったでしょうか。
カメラは役者を追いかけていって、舞台上でシームレスに演技の世界に入り込みます。私達が観ている映画としての虚構(フィクション)の中で、登場人物はさらに舞台という虚構に入り込んでいきます。

映画内の虚構は、もう一つ存在します。リーガンのヴィジョン(妄想)です。
そもそも初登場シーンからして、瞑想しながらパンツ一枚で空中浮遊してます。シュールな光景ですが、この後も超現実的なシーンは一杯出てきます。で、面白いのが、やっぱりその妄想の光景も、シームレスに映像に入り込んでくる点です。
指を動かしてテレビを消したり、物を浮かせたり、壊したり。あるいは指を鳴らせば、街中がいきなり戦場になり、空を飛ぶ。非現実的なヴィジョンが、自然かつ唐突に始まり、そして自然に収まります。特徴的なのは、映像にカットが無いことによってその幻想(妄想)と現実が一続きになっていることです。

「マジックリアリズム」ってそういう手法のことなのかもしれませんが、とにかくこの作品は、現実が幻想的に綻んでいくシーンが挟まれています。
もしこの映画にカットがあったらどうでしょう。リーガンの超能力が終わるタイミングとか、あるいは舞台上の演技の終わりのタイミングとか。その場合、虚構と現実ははっきり区別されます。ここからここまでが虚構で、ここからは現実。普通の映画なら、そういうことをやってくれます。今本当(現実)には何が起きているのかが分かりやすいように。
『バードマン』の映像はそれをやってくれないために、スクリーンに映っている虚構、あるいは現実の定義が非常に曖昧です。

本当の「現実」では誰も愛されないからこそ

ところで、この映画の登場人物って、やたらと「現実を見ろ!」というようなことを言います。プレビュー公演の只中で怒ったマイクが、スマホを掲げる観客達に向かってそう言ったりとか。
リーガンは、かつて着ていたバードスーツという「フィクション」の姿を捨てて、もう一度「愛され」ようとしていますが、その手段としてまたしても舞台というフィクションを選んでいます。「彼は現実で愛されることはできないの?」と考えたくなるんですが、しかし、この映画の長回し映像を観ていると、そもそも「現実って何だ?」と思わざるをえません。

当たり前のことですけど、本当に客観的に物事を見られる人間はどこにもいません。私達は主観を通してしか世界を知ることはできないので、つまり、私達一人一人が「フィクション」を抱えて生きています
ただリーガンが必要としていたのは、かつてのバードマンではない、「新しいフィクション」です。彼は、「自分がこんな風にありたい」という願望を持っていますが、しかし周りの人にはなかなか受け入れられません。古い時代のフィクションのイメージが強すぎたので。
この映画は、自分が社会に承認されることをテーマにしていますが、それを徹底してフィクションの観点から考えていることになります。

さて、リーガンが映画から舞台に出ようと決断したことは、どういう意味があったんでしょう?
映画は、言ってしまえば、観客がスクリーンを観るだけですが、舞台は演者と観客が同じ場の空気を共有できる表現方法です。つまり、虚構と現実の境目がより曖昧になります。劇場後ろの観客席からリーガンが入って、そのまま演技を始めるシーンがあったように。(観客はみんな驚いています。自分達がいる場所は「現実」だと思っていたので。)
すなわち、舞台とは虚構の世界から、観客席という別の世界に飛び出すことができる、数少ない表現方法の一つです。だから、観客席にリーガンは自分の「血を通わせる」ことができました。それは、それまでリーガンの中にしか無かったフィクションが、初めて観客に「現実として」感じられた瞬間です。きっと彼が映画のスクリーンで同じことをやろうとしても、上手くはいかないはずです。

ラストシーンは台詞もほぼ無くて、かなり意味深な出来になっています。あのシーンでは、またリーガンの「フィクション」が始まっていることが暗示されてますが、それまでとは決定的に違う点が、一つあります。
今まで、リーガンの「超能力」は、リーガンが一人だけのシーンでしか見られませんでしたが、しかし、最後になって初めてリーガン以外の人間がそれを目撃した……ように見えます。
あのシーンは、それまで自分一人だけに見えていた世界、「自分はこうやって社会で生きていきたい」という願望が、初めて他者(娘)に承認された、という意味に私は取りました。

自分がどんな風に見えているかは、自分だけでは決められないことで、それでも自分はこんな風に見られたいという願いは、誰しもが持っています。
この映画は、その願いを、誰もが持っているフィクションとして見ています。主観的に物事を見るしかない人間は、自分のことも主観的に見ているわけです。そして、私達が日々そのフィクションを人に認めさせようともがいていることを、滑稽に描いています。
しかし、ある虚構が初めて別の虚構に溶け出してくる瞬間。その時の衝撃を、『バードマン』は鮮明に感じさせてくれました。

広告

コメントする

カテゴリー: かんたん感想, かんたん感想 -映画

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中