映画『イミテーション・ゲーム』を観た (かんたん感想)

イントロダクション

イギリスの天才数学者であり、第二次世界大戦中にドイツ軍が使用した最強の暗号「エニグマ」に挑んだ暗号解読者、アラン・チューリングの生涯を描く作品。
史実そのままのドキュメンタリーではありませんが、伝記『エニグマ -アラン・チューリング伝』を基にしているそうです。監督はノルウェー出身のモルテン・ティルドゥム

主演は我らがベネディクト・カンバーバッチ。ナイーブで一癖のある天才とか、頭の切れる超人を演じさせれば、当代で彼の右に出るものはいません。なるべくしてなったキャスティングというか何というか。
ヒロインは、チューリングと共に仕事をしていたジョーン・クラークに当たり、演じたのはキーラ・ナイトレイ。その他、MI6から解雇されたジム・プリドー役MI6長官メンジーズ役にはマーク・ストロングMI6でMを補佐するビル・タナー役終戦後にある事件を捜査する刑事役にはロリー・キニアなど、英国の豪華な俳優ばかりで安定感がありました。

アカデミー賞では脚色賞を獲得して、脚本のグレアム・ムーアの受賞スピーチが話題になったりしてましたね。

あらすじ

1951年。イギリスの天才数学者アラン・チューリング(演: ベネディクト・カンバーバッチ)の自宅に何者かが侵入したとの通報があった。捜査に向かったノック刑事(演: ロリー・キニア)は、荒らされた彼の家の中で巨大なマシンを目にする。チューリング自身は「何も盗まれていない」と言って、彼らを追い出すが、不思議に思った刑事は情報を集めようとする。
1939年。イギリスとドイツは戦争状態に入る。チューリングは英海軍によって、イギリス南東部の田舎にある邸宅「ブレッチリー・パーク」へ召集される。それは、ドイツ軍が使う解読不可能な暗号「エニグマ」を解読するプロジェクトのための面接だった。論理的だが、人との協調性に問題があるチューリングは、デニストン中佐(演: チャールズ・ダンス)らから白眼視されるが、彼は自分が解読すると名乗りを上げる。かくして、チェスのチャンピオンであるヒュー(演: マシュー・グッド)を始めとした頭脳達が取り掛かった。
エニグマは非常に難解なマシンで、文字の組み合わせの可能性は膨大な数がある。しかも、ドイツ軍の暗号設定は毎日変更され、一つの同じ暗号を解読できる時間を一日以上与えない。チューリングは早くから、これは人間に解くことは不可能であり、マシンに対抗できるのはマシンしかないと考えていた。それを作ることを同僚や中佐にかけ合うが、性格が災いして相手にされない。しかし、彼の考えをチャーチル首相に直訴する手紙が受け入れられ、チューリングは一転してリーダーとなる。
彼はさらに優秀な頭脳をチームに入れるため、新聞にクロスワード・パズルを載せ、それを解けた国民を候補者とした。その最終テストに、ケンブリッジ大卒の女性ジョーン・クラーク(演: キーラ・ナイトレイ)などが合格する。ジョーンは両親に配慮して、一旦は暗号解読計画への勧誘を断るものの、チューリングの熱心な説得を受けてブレッチリーに赴く。
そして、ついにチューリングは、「クリストファー」と名前を付けた暗号解読マシンを開発するが――。

〈↓ネタバレあり Spoiler Alert!↓〉
・映画『イミテーション・ゲーム』

レビュー

判断のテスト

アラン・チューリングやブレッチリー・パークについては、『エニグマ・コードを解読せよ』という本を読んだことがあります。しかし、読んだのが高校生の頃だったので、今では大分記憶も曖昧になってしまっています。

エニグマ・コードを解読せよ

エニグマ・コードを解読せよ
チューリングについて、かろうじて知っているエピソードといえば、「チューリング・テストの考案者である」こと、「オリンピック選手並みに足の速いランナーだった」こと、「同性愛者だった」こと、そして「最期は青酸カリ入りのリンゴをかじって死んだ(と思われる)」こと。
こんな有様だったので、アラン・チューリングの人生に、こんなに立体的に触れたのは、これが初めてでした。

この映画はチューリングの生涯を描いていますが、時系列順ではありません。
1920年代のパブリックスクールでの少年時代、1939年以降の戦時中のブレッチリー・パークでの仕事、そして終戦後の1950年代、警察の捜査を受けた余生(作中における「現在」に当たる)。主にこれら3つの時代が、交互に語られて、チューリングの内面に迫っていきます。
映画の始まりは、刑事によるチューリングの尋問です。よって、この映画全体が、チューリング自身によって語られた物語という形式になります。
中盤でチューリング自身が示唆する通り、この映画自体が一つの「テスト」です。数学者であり、暗号解読者であり、同性愛者であり、英雄であり、そして「犯罪者」であった一人の人間を、現代の私達がどう評価するべきかというテスト。

「模倣ゲーム」(The Imitation Game)という言葉は、もともとチューリングが書いた『計算する機械と知性』(“Computing machinery and intelligence”)という、1950年(つまり終戦後)の論文の最初の節のタイトルです。(ちなみに、原文はこちら。)
ゲームの概要はこう書かれてます。プレイヤーは、A(男性)、B(女性)、そしてC(質問者)の三者。Cには、AとBの姿は見えないようになっており、Cは二人に質問をして答えを聞き(声ではなく文字でやり取りする)、それぞれの性別を当てることが目的です。一方で、Aの目的は、Cに間違った判断をさせることで、Bの目的は、Cに正しい判断をさせることです。
ここで、チューリングはこんな問いを発します。「もし、機械がプレイヤーAになったら?」
これが、「機械は思考できるか?」というより大きな問いへの第一歩とされています。もし、CがA(機械)のことを人間と間違えれば、その機械は「知性」を持つと考えて良い。これが「チューリング・テスト」の趣旨(とされる内容)です。

歴史は嘘をつく

実際は、単にこのテストに合格しただけで、その機械が知性や意識を持つことを主張できるかは、いろいろ議論がありますが(例:中国語の部屋)、それはそれとして、とにかくこの映画の主眼は、タイトル通り「模倣」にあります。

この物語は、色々なレベルで「嘘」が登場します。
ブレッチリー・パークは「無線機器製作所」である。 ジョン・ケアンクロスがソ連のスパイであることは誰も知らない。連合国はエニグマを解読していない。アラン・チューリングは異性愛者である。ジョーン・クラークは彼を同性愛者だと疑ったことは無い。アラン・チューリングもジョーン・クラークも、戦時中に暗号解読に関わっていない――。
秘密を隠すために、人は嘘をつきます。そんなことは経験しなかった人間であるかのように。自分は別の人生を歩んできた人間であるかのように。
戦争は、秘密を一番多く守り通せた者が勝利するのかもしれません。しかし、それによって、本当のことが歴史の表舞台になかなか姿を現さなくなります。実際、このエニグマ解読などに関するドラマの多くは、軍事機密扱いで50年は封印されていました。(逆に言えば、50年経てば公開可能になるんですが。)

歴史上の嘘は、後世の私達をミスリードすることになります。当時の人々の顔も声も直接知ることができない私達「プレイヤーC」は、残された(恣意的に選ばれた)頼りない情報のみを基に、歴史を判断しなければなりません。過去の人間が、嘘を付いているのか、真実を伝えているのかも分からないまま。
チューリングも長い間誤解されてきたわけです。民間レベルではともかく、2013年に死後恩赦が与えられるまでは、公式には犯罪者扱いでしたから。

でも、私達にも全部を知ることはできません。チューリングが死んだ日に何が起きたかは、依然として謎のままです。彼だけが墓場に持って行った秘密です。
この映画は、チューリングの「クリストファー」と名付けられたマシンへの愛着との関連を感じさせつつ、物語をまとめようとしたように感じられました。「マシンは思考するか」という問いが尋問シーンでも出てきますが、彼の初恋相手と同じ名を冠したマシンが既に出てきていて、その問いをしていたら……。
チューリングは人工知能のアイデアの先駆者でもあったわけですが、あの描き方では何だか将来的に、機械に自分の恋人を「模倣」させることを夢見ていたのではないか、という印象さえ持ってしまいました。
それは流石にドラマチック過ぎるというか、SFが過ぎるというか。あくまで実話を基にした創作なので、良いんですけれど。

つまり、この映画は、チューリングの同性愛感情というパーソナルな側面と、思考する機械、コンピューターの祖としての表向きの功績とを結び付けて、語ろうとしたのだと思います。
しかし、いつでも最終的な判断は、私達に委ねられています。そして、それをどのように後の世代に教えていくかも。

一個人が自分だけの秘密を守ろうとすることと、それが原因で(後世の)他者に誤解されること。チューリング一人に限らず、歴史上の至るところで起きている葛藤です。
人間は、望むと望まざるとに関わらず、誰もが歴史の模倣ゲームの参加者になるんでしょうね。

雑感

特に説明の無かったエピソード

史実のチューリング本人には色々な逸話があるみたいですが、劇中では全部を伝えきることもできないですし、またいちいち説明もできません。
何度か、チューリングがトレーニングウェアを着て疾走するカットがありますが、実際に彼は足が速くて、当時のオリンピック選手級とも言われるほど。
また、彼が死んでいるのが見つかったとき、遺体の傍らには齧りかけのリンゴがあったそうです。死因は青酸カリ中毒。映画ではそのシーンはありませんでしたが、ジョーンに勧められてヒューらと打ち解けようとしたときに配っていたのが、リンゴでしたね……。

ブレッチリー・パーク

英軍の暗号解読の要塞であったブレッチリー・パークの様子が実写で見ることができて楽しかったですね。
冒頭のチューリングがしたように、ロンドンからブレッチリー・パークへ行くには列車だったようです。一般の無線技術者や職員などとして雇われに来た人々も、はるばる列車でやってきたりして。秘密の仕事らしく、事前に指示された内容も独特で、例えば「駅に着いたら、(指示書の入った)封筒をある男に見せるが、渡してはいけない」など。スパイじみています。
敷地内には、無線傍受のための小屋と、チューリングらの仕事場の他、職員の宿舎、娯楽用のテニスコート、(映画にも出た)パブなど、まさに生活を敷地内で完結するために必要な施設が一杯だったそうです。
ちなみに、(もちろん映画では省略されてますが)ドイツが降伏した後は、まだ日本軍が太平洋で戦い続けていたので、ブレッチリー・パークの仕事も、日本軍の暗号解読にシフトしたそうです。

[2015/4/14: 一部、ソースが不正確な内容があったので、削除しました。]

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