あえて比べるジェームズ・ボンドとジェイソン・ボーン(前編) -映画『ジェイソン・ボーン』三部作 各論編

『ボーン』三部作紹介編総論編の投稿からかなり間が空きましたが、唐突に「良いモノ語り」を再開します。今回から各論編。

1.はじめに

共にイニシャルが「J.B.」である二人のアクション・ヒーローがいます。
方や50年以上にわたって継続的にシリーズが作り続けられている映画の主人公。方や21世紀のゼロ年代に印象的な三部作が作られた映画の主人公。

ネットを見てると、ジェームズ・ボンドとジェイソン・ボーンを比較してみようと試みるやり取りに、それなりに遭遇します。
この手の作品を越えた(時にジャンルすらも越えた)比較議論というのは、たいてい不毛でキリがありません。
実際、ただ立ち位置が似ているだけで共通点が少ないもの同士を比べたところで、あんまり意味が無いものです。

しかし、少し前から私は、この二人のヒーローの間の違いと類似点を考えてみるということをしたくなってきました。
というのも、比較することによって、それまでは見えてこなかったそれぞれのヒーローの特徴を浮かび上がらせることができるかもしれないと思ったからです。それぞれ映画史の中で一定の存在感を放っているヒーローを、あえて対比して見ることで、また彼らの姿が違って見えてくるかもしれません。

というわけで、まずこの前編では、二人のヒーローを様々な角度から改めて見てみたいと思います。

〈↓ネタバレあり Spoiler Alert↓〉
小説『暗殺者』(ロバート・ラドラム)

2.比較してみる

2.1.来歴

ジェームズ・ボンド
イアン・フレミングによって創作されたジェームズ・ボンド(James Bond)が最初に世に登場したのは、1953年の小説『カジノ・ロワイヤル』。英国諜報部きってのスパイで、「007」なるコードネームを持ち、任務中に自分の判断で敵を殺害しても不問にされるという「殺しのライセンス」を持つ男。英国を守るために世界を駆ける彼は、任務の途中で魅力的な謎の美女に出会い、危険な陰謀を企む者を追い、壮絶な闘いに勝利して任務を達成します。「スパイの本場」ともいえる英国で、シリアスで地味な本来のスパイ像とは離れた、華やかさを身にまとったスパイが生まれたのは、それ以降の「スパイ」に対する世間のイメージに決定的な影響を与えてしまったという点で、功罪あるかもしれませんが。
ともかく、映画化され、2014年現在まで6人の役者によって演じられてきた彼は、男性性やダンディズム、マッチョイズムのシンボルとしての地位を得ます。劇中に出る自動車や時計、銃、あるいはウォッカ・マティーニは、ジェームズ・ボンドと固く紐づけられた代物になっています。それだけ時代に影響を与えてきたヒーローです。

ジェイソン・ボーン
一方、ロバート・ラドラムによって創作されたジェイソン・ボーン(Jason Bourne)は、1980年に発表された小説『暗殺者』(The Bourne Identity)の主人公(山本光伸氏の訳的には「ジェーソン・ボーン」)。地中海上を漂流していたところ漁船に救助された彼は、自分の名前を含めた一切の記憶を失っていました。しかし彼の身体からは、コンタクトレンズの使用痕、毛髪を染めた跡、そして、臀部の皮膚の下に埋め込まれていたフィルムに記された、スイスの銀行口座の番号が見つかります。彼は自分のことをまったく覚えていませんが、格闘では明らかに素人ではない動きをし、拳銃の解体も無意識のうちにやってしまいます。
ここまでは原作は映画版とそう変わりませんが、この後は違ってきます。紹介編でも書いた通り、映画版は原作からいくつかの設定を借りているだけで、筋書きはかなり異なっており、特にボーンの正体はまったく違います。原作のボーンは、実際には暗殺者ではなく、架空の暗殺の実績を積み重ねることによって、世界的なテロリスト・カルロスの注意を引くために作り出された、ダミーの人格でした。これに対し、映画版のボーンは、CIAによる人格改造や精神矯正を経て生み出された、正真正銘、本物の暗殺者です。

2.2.アクション

ここからは映画版に限った話です。
2.2.1.格闘
ジェームズ・ボンドは、世間的にスムーズでスマートな男というイメージを持たれがちですが、実際には泥臭い格闘を毎作のように演じています。
つまり、秘密道具よりも純粋な腕力勝負の場面です。悪役の下っ端どもとは無数に殴り合いしてますし、キャラの立つ悪役、たとえば『ロシアより愛をこめて』のグラントとか、『ゴールドフィンガー』のオッドジョブ、『ゴールデンアイ』のアレック、『スカイフォール』のパトリス……などなどとも、拳で死闘を繰り広げます。
格闘のスタイルは作品ごとに変化するので、これがジェームズ・ボンドの格闘だと一概に言うのは難しいです。
キレのある動きもあったり……。ちょっともっさりする時もあったり……。激しさを増したり……。ちなみに、『慰めの報酬』には、後述の『ボーン』シリーズを指導した格闘スタッフが参加しているせいか、かなり「『ボーン』っぽい」格闘シーンがあります。


ではそのジェイソン・ボーンについて。格闘シーンは全作品で重要な見せ場となっており、どれも印象的です。身近なものを武器として使うという、ボーンの頭の回転の速さを象徴したアクションも取り入れられるなど、ボーンというキャラを掘り下げる意味でも、格闘は大事なシーンとなっています。この点、ただの敵を倒していくだけの「アクション」に留まっていません。
格闘スタイルとしては、フィリピンのカリ(またはエスクリマ。参考動画)という武術やボクシング、それにブルース・リーのジークンドーの動きも取り入れられているようで、動きが素早いです。最少の動きで、最大のダメージを与え、効率的に敵を無力化するというスタイルが感じられます。特に↓の動画の2:14~。流れるように敵を倒していきます。

2.2.2.ビークル
ジェームズ・ボンドで乗り物といえば、ボンドカー……ですが、特殊な装備が施されたそれが初めて登場したのは、第3作『ゴールドフィンガー』の時からです。作品によって車種は変わってますが、ボンド映画に登場した車は、それだけで特別なブランド感を持つようになっています。(前述の通り車だけじゃないですが。)
↑たぶんボンドカーが一番ボンドカーしてるアクション。
また、車以外でも、バイク、ヘリコプター、飛行機、果てはブルドーザーやショベルカー、戦車まで完全に乗りこなしてしまうから、化け物です。00になるにはあらゆる乗り物の操縦を勉強しなければならないんでしょうかね……。


対してジェイソン・ボーンは、基本的に自分の車を持っておらず、人から借りるか盗むかという手段で乗るしかありません。第1作では赤色のミニクーパー、第2作ではモスクワの年季の入ってそうなタクシー、第3作では原付、オートバイ、パトカーなど、色々乗り回してます。
ボーンのビークルはより庶民派というか、即興的です。ボンドのように高性能の車を選り好みする暇なんて無くて、手近にあるものは構わずに乗ってしまいます。そのため、乗り物の性能で追う側に劣ってしまうこともしばしば。第2作のカーチェイスが象徴的で、激しいクラッシュを繰り返しボロボロになるボーンのタクシーに対し、彼を追う刺客キリルが乗るのは、メルセデスのいかつい大きな車です。もちろん、性能や数で優れている敵を相手に、平凡な車がいかに打ち勝つかというところが、このシリーズのチェイスシーンの面白さにもなっています。
↑もはや語り草になった感もある、第1作のパリでのチェイスシーン。

2.2.3.ガジェット
ボンドといって一番世間的にイメージされるのが、Qが支給する秘密兵器です。先ほどのボンドカーもそうですが、多くの作品でSF的なガジェットが登場し、その使いどころが盛り上がりどころとなっています。

劇中にどれだけガジェットが登場するかは、その作品が志向する「リアルさ」のレベルによるようで、より本来のスパイらしさを強調したい作品では、登場回数は少なくなっています。『スカイフォール』のQは、掌紋認証式のワルサーPPKと救難信号発信機しか渡さず、「もうそういう方向は止めにしたんです」(“We don’t really go in for that anymore.”)と言っていましたが、果たして次作以降はどういうポジションになっていくのか。


一方で、ボーンは珍妙なガジェットのイメージは薄く、身の周りの日常的な品――たとえばボールペン、ドライバー、雑誌、トースター、扇風機、モップ、スプレー缶、タオル――などを利用して敵に対抗するという際立った能力が強調されています。ボーンが一見何の役にも立ちそうにない代物を手に取って、「何をするんだ?」と思わせたところで、思いも寄らない使い方で鮮やかに活路を切り開く、という展開が、シリーズの魅力です。
それでも、たまにはステキガジェットが登場することもあります。↑携帯電話のSIMカードをコピーするリーダー、車のドアロックを遠隔で解除する(?)装置。事前に計画する余裕があったためか、特別なガジェットをここぞとばかりに使ってます。
(前からこれ何だろうって思ってたのですが、前者のカードリーダーは携帯電話ショップには普通にありそうですし、後者の装置は、一般的な自動車のキーを分解して、信号を送る仕組みを取り出せば、ボーンなら作れるかも……という気がしてます。)


補足として、ジェームズ・ボンドがQのガジェットに頼らずに窮地を切り抜けるシーンも少し。
↑『ゴールドフィンガー』から。浴槽に投げ飛ばされた敵が、銃を掴んでボンドに反撃しようとします。それより一瞬先にボンドは電熱ヒーターを浴槽に投げ入れ、感電させます。銃や刃物といった武器らしい武器に、日常的な品でさっと対抗するというのが、映画に出てくる「即席武器(improvised weapon)」の魅力です。
↑の動画の2:37~のバージョン。『007 死ぬのは奴らだ』から。こちらも即席武器のシーン。左手には火のついた葉巻、右手には洗顔スプレー。といったら、やることは一つです。
↑『ワールド・イズ・ノット・イナフ』から。最初こそ拳銃型の爆弾ガジェットを使いますが、部屋から逃げ出す際、ブラインドをまとめる紐を取り、それで倒れた敵の身体と自分とを結ぶと、その紐を掴んで窓から飛び降り、脱出します。

2.2.4.諜報テクニック
間違ってもジェームズ・ボンドから本物の「スパイ」の仕事を想像してはいけません。
スパイとは、密かに対象から情報を集めて精査して、お上に報告する仕事であって、「目立ってしまったら終わり」です。
ところが007は「そんなこと知るか」とばかりに、ありのままにやっています。街中でどれだけ派手な破壊活動をやらかして、一般人に顔をがっつり見られても気にしません。警察に追われても気にしません。敵地に飛んでいって本名を堂々と名乗って、全然気にしません。その上、先に敵に名前を知られている時もあります。
「世界一有名なスパイ」という矛盾した称号を貰うことができるのは、彼だけでしょう。


ジェイソン・ボーンは対照的です。
彼は常に「その場に溶け込む」ことをやっています。雑踏を自らの迷彩として利用します。尾行をする時も、対象から十分な距離を空けて観察し、自分の気配を感づかせません。大勢の敵に追われていても、それを倒そうとせず、上手く振り切る方法を編み出します。
ボーンの行動がこれだけ合理性を追求しているのは、ひとえに彼が孤立無援だからです。彼には、ボンドにとってのMI6のように、バックアップしてくれる存在は何一つありません。
一般市民に不審に思われたらまずいですし、警察に捕まったりすれば、そこで全てが終わりです。窮地を助けてくれるパートナーも(ほとんどの場合)いません。便利な秘密道具もありません。
ボーンがリアルな監視テクニックを用いるのは、そういう状況があるがゆえに必然的かもしれません。

2.3.ここまでのまとめ

ジェームズ・ボンドとジェイソン・ボーンという二人のアクションヒーローが、これまで「何をしてきたか」という視点を中心に振り返ってみました。
行動の派手さで目立つボンド、地味さとリアルさに生きるボーンという対照的な関係が見て取れると思います。

後編では、これらの二者のパーソナリティーにも食い込んで、権力社会との関係から二人を比較することを試みます。

(続く)

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カテゴリー: 良いモノ語り, 良いモノ語り -映画

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