映画『ファーナス/訣別の朝』を観てきた (かんたん感想)

映画公式サイトhttp://furnace-movie.jp/

イントロダクション

製作にリドリー・スコットレオナルド・ディカプリオを迎えたクライム映画。監督はスコット・クーパーです。
出演者は実力派ばかり。主演のクリスチャン・ベールは、ゴッサムシティの大富豪から一転、今作では製鉄所で汗水垂らす労働者を演じます。ベールに代わって新バットマンを今度演じることになるベン・アフレックの弟、ケイシー・アフレックが、今作でベールの弟役を演じているのも奇妙な縁ですね。他にも、ウディ・ハレルソンフォレスト・ウィテカーゾーイ・サルダナウィレム・デフォーなどの面々が出演しています。
米国での公開は、2013年11月9日。日本での封切りは2014年9月27日。

あらすじ

アメリカのある田舎町で暮らしているラッセル(演: クリスチャン・ベール)。彼は製鉄所で働き、病気で寝たきりの父と、軍に所属している弟ロドニー(演: ケイシー・アフレック)の面倒を見ながら、恋人のリナ(演: ゾーイ・サルダナ)と共に暮らす、つましいながらも平穏な生活を送っていた。ロドニーは金に困っており、ペティ(演: ウィレム・デフォー)から借金していた。ある時、ラッセルはペティの元に行き、自分の稼ぎで弟の借金を少し肩代わりする。しかし、その帰り道、飲酒運転をしていたラッセルは事故を起こし、被害者を死なせてしまう。
ラッセルは刑務所に入った。月日が流れる間に、ロドニーはイラク戦争に出征し、帰還。病気の父は死亡していた。ようやく出所できた頃には、リナは警察官のウェズリー(演: フォレスト・ウィテカー)と交際するようになっていた。そして、相変わらず金に困っていたロドニーは、ペティの元で賭けボクシングの八百長試合に参加していた。
そのことを知ったラッセルはロドニーを咎め、彼と口論になり、物別れになる。ラッセルが父の墓参りに出かける一方で、ロドニーはペティにせがんで、より高収入で危険なボクシング試合を仕切っているデグロート(演: ウディ・ハレルソン)に会いに行ったーー。

〈↓ネタバレあり Spoiler Alert↓〉
・映画『ファーナス/訣別の朝』

レビュー

みんなカタルシスを求めてる

冒頭から暴力シーンで始まったのが印象的でした。躊躇うことなく女性にも男性にも暴力を振るうデグロート。
主人公の描写からではなくて、この(悪漢の)暴力のシーンから始まるあたりに、この作品を象徴する何かがあるように感じずにはいられません。

大枠で見ると、これは、いち労働者だったラッセルが「堕ちていく」物語です。平穏なはずの暮らしは、何かをきっかけとして、ぼろぼろと崩れ始め、そのみじめさをむき出しにされ、冷たいものに変わり果てます。
一体何がきっかけだったのか? 何がいけなかったのか?
実際はいろいろな原因が折り重なっているので一概には言えません。ただ、ラッセルを復讐の道へと走らせた要因は、降って湧いたようなものだったわけでもないと思います。
彼の内側で抑えられてきた猛々しい感情が、全ての布石となっています。
刑務所で他の囚人に絡まれて、ラッセルが反射的に殴り返したシーンがそれをよく表しています。あの手前まで、ラッセルは勤勉で、親類を愛する、模範囚のようなキャラクターとして映っていました。事故を起こしてしまったのもただの過失に過ぎない、運の悪かった労働者のように見えていました。その印象が、あのパンチ一発でガラリと変わります。彼は内側に激情を隠しており、そしておそらく、そのために苦しんでもいる男です。

この映画はアクション映画でないにも関わらず、多くのバイオレンスシーンが描かれていますが、本当に描きたいのは暴力そのものというよりは、男の内面の激情です。暴力の背景にあって、人間をそこへと駆り立てる、猛々しさ・激しさ・雄々しさなどの性質・感情です。
その煮えたぎる感情は、普段は心の奥底で溜められています。溶鉱炉(furnace)で熱せられた鉄のように。でも、それはいつか溢れ出す機会を狙っているようです。
この映画が観客に、特にアメリカの観客に共感させるのは、閉塞感に満ちた境遇・時代の中で、その人間本来の性質ともいえる感情を爆発させるところだと思います。

確かに作品の設定は、現代のアメリカが意識されています。バーのテレビ放送で「バラク・オバマを大統領に~」とスピーチする議員がいたので、2008年頃か2012年頃の設定でしょうが、とにかく現代です。
ラッセルはいわゆる中間層とは言えなさそうな住民です。上下の格差でいえば下の方に位置する、田舎の労働者。自分の持ち家は無く、彼女には「働き過ぎ」とも言われ、弟は軍隊に入っても収入は不安定。おまけに製鉄所は最終的に閉鎖が決まります。
依然として不況と高い失業率にあえぐ国民。戦争の重い影の中で生きる国民。

こんな閉塞しきった時代で、どうやったら自分らしい生き方ができるでしょうか。
生活の糧は無くなり、愛する家族を奪われ、恋人にも逃げられ、公権力も救ってくれなくて。自分の力ではどうしようもできないのでしょうか。全部運命が悪い方へ向かっているんでしょうか。
大きな時代や社会の動きの前では、自分がこうありたいという望みも失いかけます。だから、それに抗いたいという想いも強くなります。エンディング曲のタイトルも”Release”だったように、みんな溜めこんだ鬱屈した思いを晴らしたいんです。
それでも私達にはなかなか思うようにできません。ロドニーが自分自身のプライドを取り戻そうとして、結果悲惨な最期を遂げたように。
なので、ラッセルがいよいよ激情を噴出させる様に、観客はカタルシスを感じることができます。抑えつけられれば抑えつけられるほど、爆発する時の激しさは増すものです。

この映画は、「アメリカ人が求めてるカタルシス」のための作品だと私は思いました。
観客の立場に近い時代背景や舞台、人物の設定。丁寧な情景描写や心情描写。そして暴力の激しさ。それら全ての要素は最後のラッセルの迎える対決に向かってまとまっていき、そこで爆発します。
この作品の原題は”Out of the Furnace”ですが、まさに「溶鉱炉の外へ」と熱い感情が溢れ出ていく様を描くことに終始していたと思います。
実際、私もその過程がとてもつぶさに描かれていたところが楽しめました。

それでも……少しだけ欲を言わせてもらうと、カタルシスの「その先」の方も見てみたかったです。
ラストシーンの簡潔さに思わず面食らったのは私だけでしょうか? デグロートをとうとう射殺した後、エンディングソングのような曲が流れだして画面は真っ暗になって、「お? 終わり?」と戸惑っているところに、暗い部屋に一人でいるラッセルのカットが映し出されましたが、それが消えると本当にエンドクレジットが流れます。エピローグも後日談も全く描かないところに驚いてしまいました。
要するに、劇的な対決が終わった余韻が、そのままエンドクレジットに続いてるんです。他の映画であったら、対決を終えた後にエピローグなどが入ることでワンクッション置かれるんですが、この映画ではそれがありません。
いや、別に良いんですけれど、それでも、感情というのは所詮短くて儚いものだと思います。その感情の先、自ら運命を切り開くようになったラッセルがその後どうなったかというのも、できれば見たかったなぁ……と思います。
やはり、この映画は”Out of the Furnace”という動きを描くことに絞っているんですね。

雑感

俳優陣の演技

クリスチャン・ベールの表情が好きでした。特に前半で見せた、眉を下げながら悲しげに笑ってみせるあの顔。あれが好きです。その他でも、喜び、怒り、悲しみを全身で表現する自然な演技が凄く良かったです。この人が主演で良かった。
ケイシー・アフレックも印象的でしたね。どこか言動に危うさというか脆さがあって。ベールとの仲の良い兄弟の演技に心温まっただけに、最期は切ないです。そういえばこの人が出てる『ジェシー・ジェームズの暗殺』を観よう観ようと思ってまだ観れてなかったり……。
ウディ・ハレルソンは相変わらずキレてるという感じでした。演技してるようにすら見えないと言ったら失礼でしょうか。個人的にあの喋り方と声が好きです。ラストシーンの対決ではもっと暴れるところが見たかった気も。

冒頭映ってた映画

私の見間違えでなければ、エンドクレジットによると、冒頭のドライブインシアターで映ってた映画は、『ミッドナイト・ミート・トレイン』です。例の『ルパン三世』の実写化で悪名高い北村龍平がハリウッドで初めて監督した作品のようです。以前ちらりとクリップ映像をどこかで見たことはあったんですが……、正直言ってやたらにグロいホラー映画だったという記憶しかありません。
何でこの作品を選んだんでしょうね? やはりヴァイオレンスが激しいという点でしょうか。まあ劇中で映ってた範囲ではグロシーンはありませんでしたが。デグロートあたりが気まぐれに観に行くにはちょうど良い映画なのかもしれません……。

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