『Open Your Arms』&『Distance』レビュー -アルバム『The Back Room』 各論編

アルバム『The Back Room』を各曲レビューしていく試みも、ギリギリ2013年内に終わりそうです。最後の2曲は一気に見ていきます。途中では脱線話として、音楽をアルバムで聴く醍醐味についても書いてみました。

ライナーノーツ的解説

『Open Your Arms』

“Open your arms and welcome people to your town”
 (腕を広げて 君の町に人々を迎えるんだ)

ギターとドラムだけの静かなイントロから始まります。私なんかは、しとしとと雨の降る午後の住宅街を連想してしまいますが、このアルバムを通しで聴いてきた人には、何か大団円の手前にある気だるさのようなものを感じさせるかもしれません。この辺りは音の使い方も控えめで、これまでのアップテンポな曲の連続に対して、メリハリを付けようとしているようです。

“Look up look up look up now”“You fail you fail to see now”、また、
“What you need the most”“You’re the perfect host”が、
それぞれ押韻(というほどでもないですが)になっています。スタンダードな歌詞作りのイメージ。内容を見てみると、語り手が何か逆説的なことを言ったり、受け手(you)に冷静に当たるような響きがあります。

Aサビは、歌詞のシンプルな繰り返しです。その意味は明瞭ではありませんが、一方でサウンドはここで一気に世界が開けたように明るくなります。曇の切れ間からひと時だけ陽が差したように。

タイトルの言葉は、2番で初めて登場します。
“Open your arms and welcome
People to yout town”

この後にもう一度“Look up look up look up now”のフレーズが来、ここで語り手の言葉は、何か聞き手を元気づける、高揚させる(uplifting)ような意図をもって聞こえてきます。”you”が彼の言うとおり、一度「めちゃくちゃにされ(messed around)」ているのなら、語り手の言葉は”you”の立ち直りを促しているかのようです。

2番サビ後の間奏で途端に音が静まります。ここからのパート、私は凄く好きです。
ところで、“Open your arms and welcome”という詞は、改めて見ると、受け手”you”がこれまで自分の周囲を拒絶していたようなことを示唆していないでしょうか。他者を寄せ付けないような冷たい、謎めいた人物イメージは、これまでの曲のものと一致するところがあります。自分の領域へ誰も受け入れたがらない存在。アルバム『The Back Room』でずっと描かれてきた”you”は、そういった点で、ナイーブではかなげな美しさを持っています。
そうだとすれば、この曲の歌詞は、これまでずっと固く閉ざされていた扉を、ついに少しずつ開けるように促しているかのようです。“Open your arms and welcome”のフレーズをどんどん繰り返していくこのパートは、これまでずっと到達できなかった場所へと近づいていく予感を覚えさせます。「繰り返し」は、Editorsの曲の歌詞でも重要な要素であると、以前書いたと思います。一度目よりも二度目、二度目よりも三度目で、そこに込められた感情はいや増していく。
それに合わせて、サウンドもどんどん大きく、明るい方へ向かっていきます。4:17秒頃からのギターが好きです。まさにこれをこそ聞かせるために、今までのパートがあったのだと思わせるような、至高のサウンド。アルバム全体で見ても、一際光ってるメロディだと思います。

歌詞、サウンド、曲の構成・展開など、どれをとってもレベルの高い曲です。アルバムの10番目、最後から2番目(ボーナストラックを抜いた場合)にこの、”Open Your Arms”という名の曲を配置したことは、ある意味で、一つの救いや希望を提示することになっています。これまでの曲が、本質的に相容れず、相互理解の難しい人物のイメージを描いてきたとしたら、この曲はその問題に対する一つの答えです。Editorsは、このアルバムが「ダークさと、その中にある希望」をテーマにしているという旨の発言をしています。
それなら、きっとこの『Open Your Arms』が最後の「希望」にあたるでしょう。

『Distance』

“Distance, I’ll keep my distance”
 (距離を 距離を取ろうと思うんだ)

この曲のイントロは、前曲の『Open Your Arms』のアウトロから繋がっているように聞こえます。こういう構成は、このアルバムではここだけです。
ちょっとしばらくレビューから脱線させてください。「音が繋がって聞こえる2トラック」というのは、別にアルバムの作り方として珍しくないものですが、それでも色々と考えられることがあります。同じアルバム上で、トラックの切り替えに適度な間・無音期間を置くものがほとんどな中で、音が繋がって聞こえるトラックがあれば、注意を集めることになります。もしその2曲間に、歌詞やメロディなどの面で明確な共通点、あるいは対比点があるなら、そういう構成にした意図は推測しやすいです。しかし、そういうものばかりとも限らなくて、簡単には関連が見えてこないトラック間でも、繋がっていたりします。
そういう場合の作り手の意図は考えづらいです。もちろん、意図なんて無くて、ただなんとなくそうしてみただけ、ということもあるかもしれません。それでも、他の曲が一定の無音のインターバルによって挟まれているのに対し、ある曲の間だけそれが無いというのは、何か偶然ではないものを感じさせがちです。
ところで、気付いた方もいるかもしれませんが、私のここまでのレビューは、このアルバムを「通しで」聴いてきた場合を念頭に置いて書いてきました。CDを再生機器にセットしたり、iTunesでアルバムをダウンロードしたりしてから、トラックを飛ばさないで、リストの順に従って聴く時のことを想定してきました。理由の一つは、アルバムという形態の作品はそう聴かれるべきものと私が考えているからです。
みなさんがアルバムというものを普段どんな風に聴いているのか知りませんが、音楽アルバムという媒体は、映画や小説などよりはいくらか自由な鑑賞法を許してくれると思われます。初めての映画や小説作品を、いきなり途中から観始めたり読み始めたりする人なんて、そうそういませんよね。一つの物語を伝える映画や小説は、基本的に、一つの決まった方向に沿って鑑賞して初めて作品として成立するようになっています。どんなタイミングから観始めても作品として成り立つ映画や、章をランダムな順に読んでいっても理解できる小説が無いように(世の中は広いのでもしかしたらあるかもしれませんが)、これらの媒体は、比較的狭い鑑賞法を要求します。
では、アルバムはどうでしょう? CMやミュージックビデオで事前に聞いていた曲から先に聴いたり、あるトラックをしばらくリピートしたりなど、収録の順番にこだわらずに聴いても特に不都合はありません。人によっていろいろな聴き方がありえます。つまり、アルバムは、それ自体で一つの作品、というより、複数の作品の集合体として扱われることが多いのです。実際、アルバムが「アルバム」たる条件は、複数の曲が収録されていること、です(1曲でも、収録時間が長いとアルバムと呼ばれることもあるみたいですが)。なので、アルバムはただ複数の曲を包含しているだけであって、それ自体はさしたる文脈を持っていないのだ、と見ることもできます。
では、上述のように、「繋がった」トラックはなぜ存在するのでしょうか? これは、アルバムで聴かなければ気付けないことです。繋がっている曲の一方だけをダウンロードしても、複数曲にまたがる繋がりを知ることはできません。つまり、「繋がり」は、基本的にアルバムで聴いているときのみ認識できます。なので、アルバムという聴き方において、初めて何らかの特定の効果をもたらす手法といえます。
確かに、アルバムの聴き方は自由度が高いです。どんな順番から聴いても結構。でも、繋がっている曲達をその順番で聴く時と、バラバラに聴く時とでは、明らかに印象が変わると思います。個別の曲に対する印象が変わるだけでなく、その文脈のような何かについて、新しく気付くことができるのです。私は、アルバムの醍醐味とは、その文脈性だと思っています。

トラックが繋がっている理由の話に戻りますが、実際はそれははっきりしません。しかし、どんな順番でも聴かれうるアルバムにおいて、あえてそういう手法を使うのは、少なくともその部分だけはその順番で聞いてほしい、という作り手の意思表示にとれます。「その曲はこの曲の(すぐ)次に聴くからこそ意味があるんだ!」という思いがありそうだと解釈できます。そこからどんな意図を読み取るか、それは聴き手次第になります。
ともかく、トラックの間の繋がりは、個別の曲を聴くだけでは分からない、より大きな文脈の存在を聴き手に気付かせる働きがある、と思います。

さて、ようやく『Distance』のレビューに戻ります。前曲『Open Your Arms』との関連は曖昧です。ただ、前曲が「歩み寄り」についての歌だとしたら、この曲はまさにタイトルの通り、「距離を取っている」ようです。

珍しく、ドラムの音が生の楽器ではなく、打ち込みです。リードギターの音は、前曲のアウトロからコンスタントに鳴っているように聞こえます。また、歌詞は少なく、その代わりにコーラスなどのサウンドを十分に聴かせるような構成になっています。これらの点で見ると、トリを務めるこの曲は異色さが目立ちますね。

歌詞をかいつまんで言うと、ある種の「退廃さ」のイメージが語られています。
“So I’ll leave the murder scene”
 (だから僕は殺人現場を離れるんだ)
“Honey, what got broke here
Won’t got back together again”

 (ハニー、壊れたものは
 二度と元には戻らない)
なんだか穏やかじゃないものを語り手と聴き手は共有しています。しかし、語り手は一人でさっさとそこから離れようとしています。なぜ離れられるのか。
“My dreams they keep a hold of me
My guide when I can’t see”

 (僕の夢が僕のことを離さない
 僕が見えないときは導いてくれる)
大丈夫なんでしょうか、この語り手は。ただ、”dreams”という言葉が個人的に興味深いです。実際、この曲自体、まるで夢の中にいるようなある種幻想的な奥行き感があります。

歌詞の最後は、“I wish you all the best”です。別れ際に言う言葉。これは、ボーナストラックの無い本国版のアルバムでは、まさにアルバム全体の最後の歌詞になります。長らく聴き手の目の前にいた仮想の語り手が、この言葉と共に聴き手の前から姿を消すわけですから、この歌詞は歌の中の受け手(you)に向けられているのと同時に、曲の聴き手にも向けられているとも言えます。

色々な意味で、この曲はアルバムの最後にのみ来られる曲、と言えるでしょう。アウトロに流れる幻想的なギターのサウンドが、私には曖昧な夢の向こうから聞こえてくるように感じられます。この曲は、アルバムという想像の世界と、聴き手である私達の世界との境目に立つ曲かもしれません。

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カテゴリー: 良いモノ語り, 良いモノ語り -音楽

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