映画『エリジウム』を観てきた (かんたん感想)

近頃、Editors関連のポストばかりなので、たまには今日的な(?) 話題で。
というわけで、映画『エリジウム』、公開初日の朝一番で観てきました。
世間的には新型iPhoneの発売の方で盛り上がってるみたいですが、私の関心はこっちです。

映画『エリジウム』ポスター

映画『エリジウム』ポスター

映画『エリジウム』オフィシャルサイト http://www.elysium-movie.jp/site/

イントロダクション

『第9地区』(2009年) で成功を収めたニール・ブロムカンプが監督・脚本を務める、SF映画。人種差別問題を描いた前作に続き、今作では貧富の差が極限まで開いた格差社会の未来を描きます。
主演は、私が愛する『ジェイソン・ボーン』シリーズで有名な、マット・デイモン。悪役にはジョディ・フォスター (『羊たちの沈黙』など)を迎え、また『第9地区』の主役だったシャールト・コプリーも、鍵を握る悪人を演じてます。
アメリカでの公開は、2013年8月9日。

あらすじ

スクリーン上に広がる、荒れ果てた大地。その向こうには、砂塵にまみれたバラック小屋や、剥き出しのコンクリートの家、崩壊しかけたビルが立ち並ぶ。ここはアフリカではない。ここは2154年のロサンゼルス。21世紀からの人口爆発や環境破壊により、地球の人類の暮らしはますます劣悪になっていた。
マックス(演:マット・デイモン)は、かつては自動車泥棒などを働いていたが、現在はアーマダイン社の工場に勤めている労働者。彼は幼い頃から、地球の衛星軌道上に浮かぶスペースコロニー「エリジウム」へ行くことを夢見ていた。そこは、富裕層のみが住むことを許される楽園で、あらゆる病気を一瞬で治すことのできる医療技術が存在し、人々は、老いや地上の争いとは無縁の生活を送っていた。
通勤の途中でマックスは、警備用のドロイドに抵抗したと見られて、ドロイドに腕の骨を折られてしまう。マックスは病院で、幼なじみのフレイに再会する。彼女も幼い頃、マックスとエリジウムへ行くことを誓い合っていた。看護師となっていた彼女の手当を受けた彼は、近いうちに会う約束を取り付ける。
一方、地上の人々は、エリジウムの治療技術を求めて、不法侵入を散発的に試みていた。デラコート防衛長官(演:ジョディ・フォスター)は、エリジウムの生活を維持するために、それらの宇宙船を撃ち落とす命令も厭わない。彼女の過激な姿勢はエリジウム政府に警戒されるが、彼女にはある野心があった。
マックスは怪我を押して働くが、ある時、工場内で事故に遭い、全身に大量の放射線を被曝。余命5日と宣言される。助かるには、エリジウムの治療技術を利用するしかない。決意したマックスは、エリジウムへの不法侵入をビジネスとしているスパイダーと会い、取引する。手術で強化外骨格「エクソスーツ」を装着した彼は、無謀な闘いを始めた。

レビュー

<!ネタバレあり Spoiler Alert!>
映画『エリジウム』


「虐げられる多数派」の苦痛

文脈

貧富の差による格差社会は、現代で最も関心を持たれている問題の一つです。
たぶんアメリカ的には、2011年のウォール街でのデモがそれを象徴しているイベントの一つなんだと思います。
ごく最近の映画で言えば、『ダークナイト・ライジング』(2012年)でも、経済格差が演出の一部に組み込まれています(ベインの証券取引所の襲撃シーンなど)し、あるいは、ちょっと評判はアレでしたがリメイク版『トータル・リコール』(2012年)も、オリジナル版と違い、富裕層と貧困層に分断されてしまった世界という風に設定がわざわざアレンジされています。ゲームでは、『メタルギア ライジング リベンジェンス』(2013年) でも、格差の問題に言及しています。
富める少数の人間、貧しい多数の人間。「10%の人間が、世界の90%の富を独占している」などとも形容されます(いろいろな数字のバリエーションがあるみたいですが)。これは確実に今の世界を取り巻く問題です。

この映画はそういった時代の文脈に沿って作られています。
しかし、「虐げられた民衆から出たヒーローが、裕福な特権層に立ち向かう」という構図自体は、目新しいわけではありません。むしろ使い古されているようなものです。私は、この映画はこの構図に従いながらも何か新しい答えを提示してくれるのではないかと内心期待していたのですが、残念ながら実際はあまりそういうわけではありませんでした。エンディングは、それまでの流れからいけば十分納得のいくものですが、これだけの時代の文脈があるのだから、もう一歩進んだ答えがほしいところでした。
まあただの欲張りですけどね……。でも全体として凄い楽しめましたよ。
では、以下でいろいろ思ったことを。

「痛み」を描く

私が映画で目を奪われたのは、ビジュアル面のディテールです。
富裕層の生活スペースは、白を基調にした清潔感のあるデザインで統一され、健康さと優しさ、上品さを思わせます。拡張現実のモニターに、ギリシャ神話の神のような彫刻をあしらった医療ポッド、革張りの外観を持つ給仕ドロイド。
それとは対照的に、地上の様子は、これでもかと言うくらいに劣悪に描かれています。ありとあらゆるものにスプレーで落書きされています。建物や工場内はもちろん、宇宙船や、マックスがパワードスーツの手術を受けた部屋の中まで落書きされてます。地上全部がスラム街と化したかのようです。外は砂埃が舞い、ゴミが散乱し、無骨なドロイドが闊歩し、パソコンなどのインターフェースも(その時代で見て)旧式っぽいです。

そして、これらの視覚的要素の上で強調されるのが、地上の人間の受ける痛み
マックスがドロイドに腕を折られるシーンを始め、保護観察の役所?(どう言っていたか忘れちゃいました)での、ドロイドとの対話シーン。あの人を小馬鹿にしたような顔面と、薄汚れ具合、喋り方が観る者を無意識にイラつかせます。
工場でマックスが事故に遭う直前のシーンは、嫌な予感しかしませんでした。まずドアと枠の隙間に首を突っ込んで中を覗くのすら恐い。急に閉まり出したらどうするんだ! また、中に入って直さないとクビにするぞと脅す監督。人をモノとしか思ってないような発言。
そして、全身を焼かれるマックス。衰弱しきった彼に、「これにサインしろ」って言ってペンを無理矢理握らせるドロイド。ふらふらした足取りで帰り、ついには地面に座りこむマックス。
そして、パワードスーツを接続されるマックス。皮膚に直接ネジで留めて血とか出たり、後頭部に脳神経と接続したコンピューターを突っ込まれたり。
クルーガーらとの戦闘で親友を失うマックス、負傷してまたも衰弱するマックス。そして、彼を助けたために巻き込まれてしまうフレイとマチルダ。

これらのように、劇中での「痛み」の描写は徹底したものがあります。SF的なビジュアルの作り込みとともに、この妥協しない苦痛の描写が、この映画の特徴だと思いました。

また、この苦しみの演技は、やっぱりマット・デイモンだからこそという説得力がある気がします。『ボーン』シリーズでは最強の暗殺者を演じていますが、実はその著名な戦闘シーンと同じくらい、痛み(身体的にも精神的にも)に苦しむ演技が重要な意味を持っています。(またこれについてもいつか記事を書きます。)
権力に立ち向かう孤独な男を演じさせるなら、今回のこのキャスティングは適任です。

犠牲

観終わった後、『エリジウム』という映画をより興味深くしているのは、実はエージェント・クルーガーというキャラなのではという気もしました。
彼はエリジウム、特にデラコートに雇われているエージェントで、地上で文字通り身をやつして待機しています。清潔・健康を第一とするエリジウム側の人間でありながら、彼の本性はまさに戦士というか、戦場で生きる人間です。きっと彼はエリジウムにいては退屈すると思います。
しかし、彼も所詮雇われの身。デラコートの処分に伴って解雇されたら、エリジウムに向かって中指を突き立ててFuck youと叫ぶしかありません。

彼はいろいろな面でマックスと比較できます。
立場は違えど、異常な格差社会から来る不満を抱えている点で共通しています。マックスもクルーガーも、エリジウムやそれに関する企業からの解雇を経験しています。そして、どちらも権力への不満を内在させています。
そう、エリジウム側についていても、クルーガーは本質的には地上側の人間(=弱者)なのです。
だからこそ、彼は終盤、ついに政治家への不満を爆発させ、デラコートを殺します。つまり、マックスが行うかもしれなかったデラコート(権力)との直接対決は、彼が代わりに果たしています。(ほんとはやっぱりマット・デイモンにやってほしかったけど……)

ではマックスとの違いは何か。
彼はデラコートの殺害後、エリジウムの乗っ取り(takeover)を宣言します。虐げられていた彼は、今度は虐げる側に回ろうとします。
一方でマックスは自己犠牲によって、エリジウムを全ての人類に開放(door opening)しました。
『エリジウム』で描かれる闘いは、「持たざる者 vs. 持てる者」という構図から、「革命で手に入れた特権を自分のものにしたいか、みんなで分け与えたいか」という構図にシフトしています。さっき上で、エンディングの答え(少数の自己犠牲により人類が救われる) が物足りないと書きましたが、この視点を取り入れるとまた新たな意味がエンディングに加わるかもしれません。

犠牲は、いつの世にもあるかもしれません。しかし、どうせなら、不平等な構造を維持するための犠牲より、それを改善するための犠牲でありたいじゃないですか。

雑感

以下、他に思ったことを取りとめもなく書いていきます。

  • 生体デバイス
    劇中でカーライルが、エリジウムのリブートプログラムを脳内のコンピューターで保護しています。もし現代ならハードディスクなり何なり堅牢なデバイスで保護するんでしょうが、あえての生体を利用したデバイスというところが興味深かったです。自分の脳なら手荷物になりません。
    いや、何か劇中では脳同士をコンピューターで繋いで~ということがあまり説明されずに当然のように描かれていたんですが、むしろこっちの技術が重要じゃね? と個人的に感じました。
    映画のPRサイトの一つに、アーマダイン社の公式サイト風のサイトがあるんですが、そこの一番下の文章に「脳防衛システム」というワードがあって、実は公開前はそこに非常にソソられてwktkしてました。こんなとこに興味をもつのはたぶん私くらいです。
    現実であれば、ハッキングに対してプログラムを自己消去する措置とかがありえそうですが、カーライルの画面のオプションには「麻痺」(多分)と「死」の二つがありました。ということは、脳のプログラムをダウンロードするには別の脳でないといけないんでしょうかね? (無機物でダウンロードしようとしたらこのオプションは通じませんし。)
  • ドロイドの出番が少ない?
    中盤までは、警備用ドロイドがアクションシーンなどで幅を利かせていたんですが、特にクルーガーの登場以降はあんまり出番が少ない気がします。特にエリジウム内ではマックスと戦闘してませんよね? 人間vs.人間の描写に絞られたからかもしれませんが、もう少しドロイドとのアクションシーンが見られたら良かったなあと。
  • ジョディ・フォスターの出番が少ない?
    キャストでマット・デイモンの次に名前が出る割には、意外とあっさり退場しちゃって、なんだかなぁと思いました。個人的には、主人公と黒幕は何らかの形で決着を付けてほしかったのですが……。まああそこで生き延びてたら後の展開が複雑になりすぎたかもしれませんね。
  • タイトルロゴの「E」の縦棒が無い理由は?
    タイトルロゴは「≡LYSIUM」のようになります。この理由は私には分かりませんでした。別に何か映写上の不具合とかではないですよね? エンドクレジットでも、「E」の文字だけ執拗に縦棒が抜かれています。今後調べたら理由が分かるかもしれませんが、少なくとも映画内では説明されていません。
    「E」で始まる単語で、Earthが本作と関連してそうなのですが(エリジウムと地球の対比という意味で)、どうなんでしょう。
  • カメラ
    特にアクションシーンなどで、今作は手持ちカメラがよく使われています。シェイキーカムを嫌う人もいるんですが、私は『ボーン』シリーズ以来、手持ちカメラは好きです。
    また『ボーン』シリーズについてのレビューで書く予定ですが、この映画も、手持ちカメラが効果的である理由があると思います。
    私の持論ですが、まず人間の視点は固定されているようで実はされていません。私達は真っ直ぐものを見ているようで、本当は頭部の自重などのせいでごく僅かに揺れています。だから、固定された視点というのは、どうしても額縁を通しているような感覚が前提になりやすい。つまり、揺れている視点の方が私達の本来のものの見方に近いのです。
    もちろん、シェイキーカムがいつでも効果的とは限りません。昨今のアクション映画でやたらフレームを揺らしていて、よく分からないアクションシーンがあるのは事実。
    私は、手持ちカメラが効果を発揮する環境の一つは、観客の共感・没入だと思います。私達がよりその場に没入し、登場人物の視点に共感していると、よりその視点が自然に思えてきます。カメラがそのまま、その人物の視点あるいは心情を代弁しているのです。
    今作は冒頭から、観客に主人公・マックスを印象づけるための演出が行われています。観客は彼の境遇に共感する余地があります。だからこそ、視点は固定カメラやトラッキング、ドリー、クレーンのようなスムーズなものよりかは、その場の衝撃をそのまま表すような視点の方が効果的です。
    確か、エリジウム側の人物の描写の時はスムーズなカメラの方が多かったので、やはりこの演出は意図的なものだと私は思います。
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