『Lights』レビュー -アルバム『The Back Room』 各論編

良いモノ語り、バンド『Editors』の各論第1回目は、アルバム『The Back Room』 (2005) の1曲目から。これから1曲ずつレビューを書いていきます。はい。

ライナーノーツ的解説

“I’ve got a million things to say
I’ve got a million things to…”
 (言うことはすごくたくさんあるんだ)

アルバムを開けて最初に聴く曲です。
それは当然なのですが、アルバムの1曲目というのは、その後の曲のあり方を決めてしまうような、あるいは聴き手の心理状態をも定義してしまうような、重要な部分です。
彼らはどんな意図をもって、この曲をこの位置に持って来たのでしょう? 後で考えてみます。

曲はボーカルから入ります。
彼らの曲で、イントロ無しでボーカルから入る曲は案外少なくて、今のところこの他では、”You Don’t Know Love”と、”Forest Fire”、そして”A Thousand Pieces”、の3曲しかありません。そういうわけでこの曲もやや珍しい立ち位置にあります。

「明かりを付けっぱなしにしておくのが今でも好きなんだ。そのせいで眠れないけれど僕は気にならない。僕がいつも望んでいたもの全ては、そこにあるけれどすぐに消えてしまうだろう」と、歌詞は始まります。
「眠れなくても気にならない」って、何だか中毒的で、病的な様子を連想させます。果たしてその「光」は、健全なものなのかどうか。

0:13以降から他の楽器が加わり、ここから曲が本格的に走り出すようです。あるいは、アルバムという長距離トラックを駆け出すようです。

サビでは、自分の思いを切り出す勇気の足りない、もどかしさが歌われます。言いたいことは数え切れないほどある。でもそれは内側に溜まる一方。
そこで“I’ve got a million things to say”というフレーズが繰り返されますが、このフレーズ、私にはEditorsの他の曲にも共通する一種のテーマのように思えます。

「語り手(“I”)が、ある相手(“you”)に特別な思いを密かに抱いている。それが歌詞となって歌われる。」特に、このアルバム”The Back Room”には、そんな構造をもつ曲が多く見られます。
歌詞に登場する「君 (you)」はしばしば、ミステリアスで、一筋縄ではいかなくて、本心を探りがたい存在として描かれます。それは、ある種の侵しがたい神聖で謎めいた領域みたいです。
二人は互いに愛情で結ばれているかもしれないし、そう思っているのは実は語り手だけかもしれない。
語り手はそれを確かめたい。しかし、そうすればこの関係は壊れて失われてしまうかもしれない。このアルバムの歌詞の底には、そんな危うさが滞留しているように感じられます。
だから、伝えたい感情は語り手の内側に溜まります。そして、彼はそれを歌として表出します。
もちろん、彼の思いがちゃんと相手に伝わっているかどうか、保証はありません。しかし、それでも語り手にとっては、歌うことこそが重要なのです。なぜなら、彼がその方法に希望を見出しているから。
そして、彼の歌はいくらでも続くでしょう。なぜなら、「言うことはすごくたくさんある」のですから。

この曲がアルバムの最初に持ってこられたのは、そうしたテーマを聴き手に宣言するためのように思えます。

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カテゴリー: 良いモノ語り, 良いモノ語り -音楽

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