バンド『Editors』 総論編

――「いま」の「この感情」を歌い上げる

はじめに

ある時から洋楽を聴くようになりましたが、私の場合は「広く浅く」といった聴き方で、特定のアーティストの曲を熱心に追うようなことはありませんでした。1人・1組のアーティストにつき、1~3曲知っているという程度です。
初めて聴いたEditorsの曲は”Munich”でしたが、それでもそのときは言いようのない衝撃を受けた覚えがあります。これは今まで聴いてきた曲と何か違うと思い、同時に「そうそう、こんな曲を聴きたかった!」とも。
幸いなことに、彼らの作る曲は今のところ全部私の心にヒットしています。

Editorsの曲は、アルバムごとに異なる目標や志向性をもっているようです。単にそれぞれのアルバムを聴いているだけでも、曲のもつ雰囲気がアルバムごとに違うことが感じられます。
それでも、彼らの曲を聴き続けていると、何となく、彼らに共通する理念とか姿勢というものが見えそうな気がするのです。

と、いうわけで今回私が注目したいのは以下の2点。

  1. 歌詞世界
  2. 「ライブ」感の重視

歌詞世界

Editorsの歌詞はほぼ全てが抽象的です。
歌詞の語り手である、”I (私、僕、俺)”と”You (君、お前、あなた)”がどんな過去を持って、どんな関係にあるのか、これからどんな運命を迎えるのか。彼らは私達とどれくらい近いのか、遠いのか。すべては明示されません。
フロントマン、トム・スミスは、自分の書く歌詞を意図的に曖昧にしており、それは聴き手が自分で歌詞の意味を解釈できる余地を作るためだと言っています。(Editors (band) -Wikipedia (英語))
「歌詞」は、Editorsの曲の重要な構成要素だと思います。

Editorsをクールで都会的なバンドと見る向きもあるかもしれませんが、その歌詞に込められているであろう感情はむしろ情熱的で、激情ともいえます。
例として挙げれば、

孤独感、惜しみない愛、狂気的な愛、秘めた愛、悲しみ、やり場のない怒り、敵意、諦念、過去への懐古、決意、希望。

彼の歌詞は、人が内側に抱える感情をつぶさに観察して、その機微を伝えたいという情熱をもって言語化しています。同じフレーズが何度も何度も繰り返される曲がありますが、その箇所では一回ごとにその「伝えたい」「歌いたい」という気持ちはいや増すかのようです。
そして、歌詞の根底には、複雑で理解しがたい人間や人生というものを見つめた上での、ささやかな希望が流れているように思えます。
私が(言語を超えて)Editorsの歌詞に共感できるのは、たぶんそこが理由です。

「ライブ」感の重視

Editorsの真価はライブでこそ発揮されると思うのですがどうでしょうか。
このインタビューでもクリスが言っているように、彼らがライブでやりたいことは、CD音源を忠実に再現することではなく、ライブという環境でしかできないパフォーマンスをすることでしょう。
どの曲もライブやアコースティック版で聴くと、CDで聴いたときにはなかった発見があります。これって地味に凄いことだと思います。
「今・ここ」というライブ感は、彼らの曲を聴くときのあの高揚感につながります。そして実際、それはライブでの盛り上がりに繋がるのです。
「ライブ感」という現前性も、Editorsの曲の重要な要素だと思います。

(ちなみに、”In This Light and on This Evening”の日本語解説を見てみると、曲をデジタルで編集する前にまずライブ形式で録音したこと、リハーサル時もプロデューサー(フラッド)の希望により新鮮さを大事にしたことが分かります。CD収録の時点でも「今・ここ」感が生きているんですね。)

まとめ

さて、私がEditorsに惹かれるいま一つの理由は、彼らの探求心です。
今日に至るまで、サードアルバムでの大胆な方針変換があったり、バンドメンバーの再編といった経歴をたどった彼らですが、自分なりの音楽を追究している姿勢は一貫していると感じます。そもそもシンセサイザーをあえて取り入れたことも、それまでのアルバムで到達したレベルに満足せずに、貪欲に、あるいは実験的に音楽を探ろうとした結果に見えます。
私達には、彼らの音楽の探求心が、次にどこに向かうかは分かりません。

一つところに留まらない彼らだからこそ、私はいつも次のアルバム、ライブが楽しみになります。

最後に、各アルバムの全体的な感想を書いて総論を締めます。
各論ではたぶん、彼らの今までの曲を全部、A面もB面も含めて、一曲ずつレビューしていく予定です。たぶんそんなことをやるブログなんて他に無いですよね…でも良いんです。私がやりたいので。

各アルバム 全体レビュー

The Back Room

ザ・バック・ルーム
全体としてダークで、都会的な印象を受けます。それは彼らが大学卒業後、バーミンガムで地道な音楽活動をしていたことが影響していそうだと、日本語ライナーノーツから読み取れます。
思ったように相手を理解することができないことへの不安や苛立ちと、その背景にある狂おしいほどの愛情や孤独感が、見え隠れします。”Munich”や、”Bullets”、”Fingers in the Factories”など、ロー(raw)な、疾走感ある、先鋭化した曲がある一方で、”Fall”、”Camera”などの緩やかな曲も間に挟まれ、彼らの引き出しの多さを思わせます。
アルバムのジャケットは、何でしょうね? 何だか、奥へ奥へと吸い込まれていきそうになります。まるで心の深い部分に近づいていくように。暗い部分が目立つ一方で、右手から光が差しているのは、トムも言っていた、「ダークな中にもある希望」とリンクしているんでしょうか。
過去あるいは同時代のいろいろなバンドとさんざん比べられましたが、個人的にはもう既にこの頃から独自の音楽が出来上がっていると思うのです。(そう思うのは、私が彼らに入れ込み過ぎたからだけかもしれませんが…)

An End Has a Start

アン・エンド・ハズ・ア・スタート
実は私が初めて買ったアルバムはこちらでした。強いて一番好きなアルバムを決めるとしたらこれを選ぶかもしれません。
全体的に「死の匂い」がします。タイトルからして、普遍的な「終わり」「終末」を連想させるのですから。
前作に比べて、音はより厚みやスケール感を増し、重層的になっています。例えば、”Smokers Outside the Hospital Doors”、”When Anger Shows”などのコーラスのように、あるいは”An End Has a Start”、”Spiders”などでの響き渡るギターのように。
歌詞は、有限の時間(=人生)の中で誰かを愛するということを共通のテーマに、そこから生まれる焦り、悲しみ、そして不明瞭な希望が感じられます。
ジャケットは、何かの建物の骨組みのようです。シングルカットのCDのジャケットを見ても、どれも何か大きな建造物の骨格が描かれています。何かが滅びた後に残り続けるものを表している? 後、どれも円を描くような残像を作っているのも気になります。
テーマ的にも技術的にも、このアルバムでEditorsはまさに飛躍、前進しています。

In This Light and on This Evening

イン・ディス・ライト・アンド・オン・ディス・イヴニング
はい、シンセサイザー。たぶん、初めてアルバムを開いたファンは、一曲目のイントロの最初の一音から衝撃を受けたに違いありません。幸い、私はすんなりこの方向性も受け入れられました。むしろ、このアルバムがあったからこそ、彼らのバンドとしてのスタイルを直観できたような気がします。
テーマはきっと、「ロンドン」。タイトルにロンドンの通りを含む曲があることもそうですが、かつてGoogleストリートビューとコラボしてロンドンの街中を舞台に曲紹介をした(※参考→動画:Editors hack Google Street View in London)ことからも分かる通り、ロンドン、特にその夜の姿を映し出しているようです。
私の持論ですが、このアルバム、時間の経過を描いているように聞こえます。一曲目の”In This Light and on This Evening”がまさに黄昏、日没の瞬間だとしたら、そこから曲が進むごとに夜が深まっていくのです。そして、”Walk the Fleet Road”(あるいは”These Streets Are Still Home to Me”)がほのぼのとした夜明けに当たります。
『ターミネーター』のようだとも、また『ブレードランナー』のようだとも言われたサウンドですが、全体的にダーティーで、洗練されていて、具体的な質感をも感じさせます。彼らにしかできないシンセサイザーの使い方だと思います、きっと。
アルバムは、一曲目のテーマである、普段見慣れていたものが不意に変化する瞬間を描いているように見えます。切り絵風なのがちょっとオシャレ。
ファンの間で賛否両論を起こしたようですが、やっぱりこのアルバムは、Editorsには「必要」だと思います。上手く言えないのですが、そんな感じです。

The Weight of Your Love

ザ・ウェイト・オブ・ユア・ラヴ
4年間やきもきさせられた上でようやく聴くことができた待望のアルバム。
全体に「新しい風」のようなものを感じるのは、単に長らく彼らの曲が聴けなかったせいなのでしょうか。
今回、レコーディングが行われたのは、アメリカ、テネシー州のナッシュビル。公式動画からも察するに、きっとそこで、以前から彼らが好きだったアメリカの音楽に存分に触れたんだと思います。そういうわけで、このアルバムは新境地の音楽という印象を受けます。
歌詞は、愛の多様な形を描いているように思います。人に力を与える愛であれば”The Weight”の歌詞になり、それが狂気の愛になれば”Formaldehyde”の歌詞になります。
4曲目から6曲目にかけて、オーケストラ調というかブラスサウンド調のようなサウンドが続くのが気になりました。もちろん好きなのですが、アルバム全体を通して聴く上ではここはメリハリに欠けるかもしれません……。
個人的に、”Two Hearted Spider”と”The Sting”の曲が日本版アルバムで同時に聴けたのは嬉しい限り。何年も前から色々な形で公開されてから、ようやく形になったんだなぁとしみじみです。
ジャケット画像は見た瞬間、心を奪われました。素敵な発想だと思います。
このアルバムを聴いて、やっぱりEditorsは凄いバンドだと確信しました。

広告

コメントする

カテゴリー: 良いモノ語り, 良いモノ語り -音楽

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中